私はパニック映画が苦手である。具体的に言うとゾンビが出てくる例のアレである。そのゲームもかなり苦手だ。

その理由はいきなり飛び出てびっくりするからである。(そこが楽しいのでは?)

そういうわけで今回紹介したいのはゾンビがでてくる『アイアムアヒーロー』(花沢健吾)だ。

リアルでしかもめちゃくちゃ怖いパニック漫画

主人公・鈴木秀雄は元漫画家で現在はアシスタントをしながらなんとか生活しているさえない青年。

人間関係も仕事もうまくいかず、夜になれば誰かが忍び寄ってくるような妄想に囚われて眠れない夜を過ごしていた。

一方で世間で増えていく噛みつき事件、不穏な空気は彼の生活の元にまでやってきていた。というものである。

序盤で少し不安感を煽るような日常を描いてそれぞれのキャラをきちんと見せておきながらの、その日常のゆっくりとした崩壊。

その日常を徐々に崩壊していく様の描き方はとても鮮明である。

さらに主人公は特に特筆できることのない、平凡な人間。

多くの作品での『主人公』というのはその物語を進めるにあたってリーダーシップに溢れているとか、明確な意志を持っていたりするわけであるが、

この作品の主人公・鈴木秀雄はまさに平凡で、人に頼りっぱなしで、多くの人間の代表みたいな感じで人間臭さに溢れている。

そこに決して浅くない現実的なリアリティを感じる。

そしてゾンビ達の出現によりパニックになる人々。

確かに日本でこんな事件が起きてもあんまり誰も騒いだりしないんだろうなぁ。と思わせられた。

恐怖を煽るリアルな描写に加え、描写方法がかなり多彩。

その高い画力からの恐怖を煽る数多くの演出は本当に絶望感を出していて作品にいい具合に不穏な雰囲気を醸し出させている。

魅せ方がとんでもなく上手いし怖いので、見開きを開く時に少し身構える。

何と言っても生々しいリアルさがすごいのでグロテスク表現が苦手な人は注意が必要かもしれないほどだ。

そこが注目して欲しいポイントでもあるのだが……。

さらに全く先の見えない展開でドキドキさせられる。

ゾンビパニック物と言えばやはり外国ではお盛んである。

そしてそういう作品の主人公と言えば突如やってきた非日常も持ち前のポジティブさで目的を作って、集団を作ったりしてやり切る。

それも王道的で面白いのだが、この作品は主人公が上で書いた通り平凡である上にネガティブ思考である。

そのため、先が全く見えないのである。

とにかく逃げて、その先はどうしよう。という手探り感。

確かにこんなことが起きたらこの先どうするかなんて明確に決められる人間はいないと思うが……。

この作品の主人公は非常にダメ人間っぽく描かれているので本当に先が読めずにはらはらする。

そんな人間臭さやこの異様にリアリティのあるけれど、おかしくなってしまった非日常な世界観に惹かれること間違いない作品だ。