このタイトルは武士道を表した書物『葉隠』の一節である。

あの皆さんご存知有名な「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」の一節もこの『葉隠』のものだ。

今回紹介する時代劇漫画『シグルイ』(原作・南條範夫、作画・山口貴由)はタイトルの一節に由来する。

意味は「武士道は死に狂いである。一人を殺すのに数十人がかりでかなわないこともある」というものだ。

完成された王道、だがしかし、意外な結末に圧巻!

物語は駿府城での二人の主人公の御前試合の場面から始まる。

そしてこの二人の浅からぬ因縁を紐解くように回想から始まる物語。

それは復讐に次ぐ復讐という救いのない物語。そして、決闘の結末へと繋がる。

その結末にあなたは何を感じるのか、ぜひ私は多くの人の感想を聞きたいくらいである。

この作品は非常にグロテスクな描写が多い。

絵柄もおそらく万人に受け入れられるようなものではないだろう。

だが決してそれだけで毛嫌いせずに読んでほしい。

好き好んでエログロを描きたいわけではなく必要性があるのだということがとてもよくわかる。

封建社会の歪さ故に翻弄する武士達、または男と女。その結末の残酷さ、過程の残酷さ。

夢のようなハッピーエンドなど生温いと言わんばかりに現実的な残酷さを描ききったこの『シグルイ』

絵柄も、ストーリーも、登場人物達も、戦闘描写、心理描写もまたは残酷描写も。

全てがこの作品を構成する大事な要素であり、その様々な要素を詰め込み、まとめているこの漫画は漫画としてかなり完成されている。

ともあれ確かにグロテスクが本当に苦手だという人は画力の高さも相まって気持ち悪く見えるので無理にはおすすめできない。

特に女性や子供にはあまりおすすめできないのがおしい。

それゆえに緊迫感や緊張感は他作品の類を見ないほどに高いものなのだが……。

この作品における人の命はとても軽い。

封建社会という背景のために組織の名誉や主君の命に比べれば他の人の命は飛べば吹くくらいに軽いように扱われている。

その冷酷性、残忍性を持った封建社会の掟に則っている作中の登場人物達はその誰もが死に得る。

この漫画における命の軽さというものは重要人物においても例外でないために、戦闘シーンや、様々なシーンで凄まじい緊迫感を生み出しているのだ。

絵柄や作風もさることながら、実にこの作品はリアルである。

そのリアルさにあるのは作者のテーマの一貫性から来ているものだろう。

『シグルイ』は武士道の残酷なまでに不条理で暗いネガティブな側面をこれでもかという程に映し出した作品である。

武士道とはマゾヒズムの極地であるという作者の一貫した主張を作品の至る所に感じる。

そのブレることのない主張を究極的に緻密に描き切ったこの作品には異常なまでのリアルさを感じざるを得ない。

まさに「武士道とは死狂ひなり」をその高い画力と作者の芯を持ってして描き切った大作なのだ。

ぜひとも少しえぐい作風を毛嫌いせずに目を通してほしい。