Month4月 2016

武士道は死狂ひなり、王道、けれど衝撃

このタイトルは武士道を表した書物『葉隠』の一節である。

あの皆さんご存知有名な「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」の一節もこの『葉隠』のものだ。

今回紹介する時代劇漫画『シグルイ』(原作・南條範夫、作画・山口貴由)はタイトルの一節に由来する。

意味は「武士道は死に狂いである。一人を殺すのに数十人がかりでかなわないこともある」というものだ。

完成された王道、だがしかし、意外な結末に圧巻!

物語は駿府城での二人の主人公の御前試合の場面から始まる。

そしてこの二人の浅からぬ因縁を紐解くように回想から始まる物語。

それは復讐に次ぐ復讐という救いのない物語。そして、決闘の結末へと繋がる。

その結末にあなたは何を感じるのか、ぜひ私は多くの人の感想を聞きたいくらいである。

この作品は非常にグロテスクな描写が多い。

絵柄もおそらく万人に受け入れられるようなものではないだろう。

だが決してそれだけで毛嫌いせずに読んでほしい。

好き好んでエログロを描きたいわけではなく必要性があるのだということがとてもよくわかる。

封建社会の歪さ故に翻弄する武士達、または男と女。その結末の残酷さ、過程の残酷さ。

夢のようなハッピーエンドなど生温いと言わんばかりに現実的な残酷さを描ききったこの『シグルイ』

絵柄も、ストーリーも、登場人物達も、戦闘描写、心理描写もまたは残酷描写も。

全てがこの作品を構成する大事な要素であり、その様々な要素を詰め込み、まとめているこの漫画は漫画としてかなり完成されている。

ともあれ確かにグロテスクが本当に苦手だという人は画力の高さも相まって気持ち悪く見えるので無理にはおすすめできない。

特に女性や子供にはあまりおすすめできないのがおしい。

それゆえに緊迫感や緊張感は他作品の類を見ないほどに高いものなのだが……。

この作品における人の命はとても軽い。

封建社会という背景のために組織の名誉や主君の命に比べれば他の人の命は飛べば吹くくらいに軽いように扱われている。

その冷酷性、残忍性を持った封建社会の掟に則っている作中の登場人物達はその誰もが死に得る。

この漫画における命の軽さというものは重要人物においても例外でないために、戦闘シーンや、様々なシーンで凄まじい緊迫感を生み出しているのだ。

絵柄や作風もさることながら、実にこの作品はリアルである。

そのリアルさにあるのは作者のテーマの一貫性から来ているものだろう。

『シグルイ』は武士道の残酷なまでに不条理で暗いネガティブな側面をこれでもかという程に映し出した作品である。

武士道とはマゾヒズムの極地であるという作者の一貫した主張を作品の至る所に感じる。

そのブレることのない主張を究極的に緻密に描き切ったこの作品には異常なまでのリアルさを感じざるを得ない。

まさに「武士道とは死狂ひなり」をその高い画力と作者の芯を持ってして描き切った大作なのだ。

ぜひとも少しえぐい作風を毛嫌いせずに目を通してほしい。

ほんわかギャグ日常物、でもしっかりとした構成力

商店街を通るとシャッター通りになっている。

昔は多くの人で賑わったであろう往来に今は時が止まったようにさえ思う光景を見ると寂しくなる。

けれど、同時にどこか懐かしいような気持ちになる。

そんな下町の雰囲気を醸し出す日常ギャグ漫画を紹介したい。『それでも町は廻っている』(石黒正数)

商店街のメイド喫茶が舞台

メイド喫茶と言えば昔少し話題に上ったことがあると思う。

私はまだ行ったことはないが、今なお続いているところも多いそうなのでイイモノなんだろうと思う。

この漫画の舞台は下町風情溢れる商店街内のメイド喫茶である。

ただし、ここに登場するメイドさんはいわゆる『萌えー』な感じではない。

何故なら店主がお婆ちゃんなのだ。

もちろんメイド喫茶なのでお婆ちゃんがメイドの格好をしている。

なんともいかつい試みである。

だが安心して欲しい、お婆ちゃんが主人公ではない。(それはそれで読んでみたいが)

そこでアルバイトをすることとなった探偵小説好きの少し間の抜けた少女がこの作品の主人公である。

この作品はいわゆる日常系ギャグ漫画であるのだが、その話の作り方がとても様々である。

時には色恋沙汰からミステリー、SF、ファンタジーと本当に色々な角度から楽しませてくれる。

そしてそのどれもが、鮮やかな構成で描かれているので全く気持ち悪くない。

作者の引き出しの多さもすごいが、その話の作り方がとてもうまいのだ。

さらに各エピソードにクスりと笑わせてくれる小粋なギャグを仕込んでくる。

爆笑するようなギャグではないが、うまいなぁと感心する様な面白さを感じる。

そして多くのエピソードにおいて、どこか温もりを感じるのだ。

下町的で家族的な暖かさを作品を通して持っている。

この作品にはギャグと優しい日常があり、その雰囲気が読者を『それ町』の世界へと連れて行ってくれる。

この『それ町』を私は読み返すほどに面白さが増す作品であることを強調したい。

この作品を私は何度も何度も読み返している。

それは読み返すたびに新たな発見があるからだ。

この作品は時系列がバラバラに描かれている。

順序良く物語が時間経過と共に進んでいくというわけではなく、登場人物の過去の話に飛んだり、少し未来に飛んだりする。

けれど読み進めているうちは、別に違和感を感じることなく自然に楽しめる。

むしろ作品を読み進めていって時系列の繋がりを感じた時に少し感動を覚えるくらいだ。

「あーなるほど!それでこうなって、あーなるのかー」といった風に素直に納得させられるし、その気付きによってニヤニヤさせられる。

この作品の凄いところはその作品内での時間の使い方が非常に上手いところである。

俗に言う『サザエさん時空』(同じ年を繰り返すこと)を用いずに作品を膨らませるその手腕には感心せざるを得ない。

そのために何度か読み返しているうちにやっと気付けることもあって、本当に読めば読むほど味が出る漫画である。

ぜひとも繰り返し読み返して楽しんでほしい。

繊細な風景描写で神秘的な雰囲気を心から感じる作品

たまにではあるが、私は美術館に行きたくなる。

私は芸術にはとても疎いので結局は行かないのだが、行きたくなる。

何故だかはわからないけれど、神秘的な雰囲気を感じたくなるのだ。

この記事をご覧のあなたにもふとした時にそんなことを思うことはないだろうか?

今回紹介したい漫画は現在も絶賛連載中である森薫の『乙嫁語り』(読みはおとよめがたり)である。

この作品は2014年にマンガ大賞で大賞を受賞しており、その名を聞いたことのある人も多いのではないだろうか。

緻密で繊細な確かな画力で描かれる世界観はまさに芸術

この作品、とんでもなく描写が細かく描き込まれている。

作中の小道具、登場人物の衣装から風景に至るまでとんでもなく細かく繊細に描き込まれているのだ。

その描き込み具合をまず一読していただきたい。

作中で登場人物達が身に纏う衣装の美しさなど、目を奪われる程である。

全体を通しても本当に尋常ではない描き込みっぷりに驚きっぱなしだ。

私はページをめくる度にその綺麗な風景や装飾品などに驚きと感動でニヤけてしまったほどだ。

何よりすごいと感じるのはそれほどに凄まじい描きこみなのにクドく感じてしまったり鬱陶しく感じることなく、ただただ華やかなのである。

編み物などをしているシーンなど、神秘的な刺繍の模様と相まって、神秘的で素敵だとしか言いようがない。

連載漫画でこの尋常ではない描き込みっぷりは変態的(良い意味で)だとも言える程に凄まじいものであると思う。

しかも神秘感は作中の背景設定からも来ている。

作中の舞台は19世紀後半から20世紀前半程の中央アジア。

日本には馴染みが薄く、どのように暮らしているかなど覚えがないはずである。

そのためか美しく描かれる異国の地の風景はすごく想像が掻き立てられる。

そこに住まう人々、遊牧民達の生活風景などが描かれているのだが、なんとも素敵な異国情緒ある雰囲気である。

とてもロマンチックな歴史ファンタジー物である。

日本には馴染みのない生活様式や共通意識、それらも突飛に感じずに素直に受け入れられる。

本当に綺麗な絵と相まってうっとりするような雰囲気がこの作品を包んでいる。

そして物語の簡単なあらすじなのだが、最初からクライマックスである。

この物語の第一話で物語の中心となるアミルとカルルクはアミルがカルルク(12歳)に嫁いでくる形で結婚する。

結婚に至るまでのなんやかんやはとりあえずそこになく、第一話で新婚さんとなるのである。

そして結婚してからの生活やら、部族の対立などなどが描かれるわけである。

そして他にも語られるまた違った登場人物達の嫁入りの物語。

そのどれもが素敵で心温まる話であり、それぞれの登場人物に魅力も感じられる。

芸術的なまでに洗練された異国の風景とそこに登場する人物達には憧れに似た幻想的な想いを抱かせてくれる。

何か綺麗なものを見たくなったらこの作品を手に取って神秘的な異国の香りを感じとって欲しい。

幽遊白書、ハンター×ハンターを手掛けた冨樫義博渾身の一作

夏休みの時期になると私は毎年、朝にやっている『幽遊白書』の再放送がとても楽しみだった。

何度も何度も見ていたことをよく覚えている。

この作者が描く漫画はとても躍動感に溢れていて、大胆で繊細で面白い。

現在も連載中の『ハンター×ハンター』の続きもとても待ち遠しいが休載が多いことは有名で作者の身体も漫画の行方も心配である。

今なお面白い少年漫画を描き続ける冨樫義博作品の中でもおすすめしたいのが『レベルE』(冨樫義博)である。

天才的とも言えるセンスが光るSFミステリー

この作品は全3巻の短編形式のSF漫画である。

地球に潜んでいる宇宙人がトラブルを起こし、それを主人公である宇宙人の『バカ王子』が解決していくというストーリーである。

というよりバカ王子がトラブルを起こすと言った方が正しいかもしれない。

(バカバカと言っているが、バカ王子は名前であって作中では天才という設定である。)

SF作品なのだが、妙にギャグが面白い。厳密にはオカルトコメディ、SFコメディといったところだろうか。

しかし、ただコメディというわけではなくそれぞれのエピソードがストーリーとして面白いのだ。

意外性のあるオチや、話を崩しているのに説得力があるところなどに作者の力量を感じさせる。

なんとも高度なギャグ漫画である。

そして今の連載では中々お目にかかれない(?)冨樫義博先生の丁寧が絵が見れる。

『ハンター×ハンター』などはとても絵が雑(というか下書きのまま掲載されている部分が目立つ)ということでネタになったりしている。

しかし、この作者実際はかなり絵が上手いのだ。躍動感のある動きの表現では少年漫画でも1、2を争うと私は思うし、

正確なデッサン力に関しても非の付け所がないほどに綺麗な絵を描く。

この『レベルE』に関しては当時月一連載だったこともあって非常に絵が丁寧である。

そのため漫画的絵がかなり上手いなぁ、と思わされる。雑な絵なイメージを持っている方には読んでみて欲しい。

そしてこの作品はとても読みやすい、全編通して読むのに時間はかからないのだ。

何故なら上述の通り全3巻(文庫版では全2巻)と少年漫画誌で連載していたにしてはかなり短めである。

その中にSF、サスペンス、ミステリー、オカルト、コメディとてんで様々なジャンルが混ざり合っているのだから驚きである。

普通ならごちゃごちゃしてしまいそうなものであるが、そこはやはり作者のセンスと手腕が光っている。

なんとも絶妙なバランスで成り立っていて作品として壊れていない。

いつでも読者の想像の斜め上を行き、飽きさせない魅力を持つ主人公・バカ王子のキャラクターはかなり強烈である。

少年漫画には「天才キャラ」というのが大抵いて、その大体は安っぽいものだったりする。

しかしその点この作者は流石である。大変上手く魅力的に「天才」を扱っており、感心させられる。

全体を通して作者の趣味が良い具合に炸裂した作品であるが、まとまっていて短く読みやすいので長編を読むのが疲れる、なんて人にもおすすめする。

思春期の頃に感じた無力感を繊細に描く、2015年漫画大賞作品

今回紹介したい作品は『空が灰色だから』などで有名な阿部共実さんの『ちーちゃんはちょっと足りない』という漫画だ。

さて、私が『ちーちゃんはちょっと足りない』を手に取ったのはこの作品が「このマンガがすごい!」では2015年オンナ編1位であったことが理由である。

なんとなしにこの作品を読み始めたわけだが、読後、私は予想しなかった強烈な印象が残った。

そのため今回は紹介というよりもこの作品を読んだ私の感想に近いところがあるのを留意して欲しい。

この作品を読んだ人は私と同じように色々な感想を持ったことだろうと思う。

単巻のため、読もうと思ったらすぐに読めるはずだ、絶対に読んでみてほしい。

クオリティが高すぎる単巻漫画

中学2年生になるちーちゃんは同学年の子達に比べるとどこか足りない女の子で、その友人との日常を綴った物語である。

最初はちーちゃんのおバカっぷりが微笑ましいほわほわとした日常が描かれているのだが、この物語の主人公はちーちゃんではなかった。

ちーちゃんといつも三人組でナツと旭という友人がいるのだが、このナツこそがこの物語の真の主人公だった。

そしてこの作品は誰もが持っている『足りない』を描いていたものだったのだ。

私は読み始めてすぐにはちーちゃんは頭が足りていないのだろうな、という楽観的な、そんな印象しか受けなかった。

実際に物語が動き出す5話目まではほのぼのとしたちーちゃんのギャク的要素が主となっていたのだが、だからこそ物語の終盤に重く突き刺さった。

ちーちゃんは『足りない』を持っている少女として描かれている。

頭は良くないし、勉強もできない、倫理観も欠如しており、良いこと悪いことの分別もない。

そして友人のナツも『足りない』を多く持った少女である。

ちーちゃんと同じ団地住まいで裕福ではなく、勉強もできないし、彼氏もいない。

『足りない』から満たされない思いを持っているし、何かが欲しいと思っている。

一方で旭は比較的に色々な物を持っているように描かれている、家も裕福で、勉強ができ、彼氏もいる。

そんな対照的な旭や周りの人間にナツは劣等感を持っている。

中学生などのそれくらいの時期というのは自分が通う学校が社会の縮図である。

誰しもが学校の中での地位や友人や親がこの世界の全て、とは言わないもののそれに近く感じるような、そんな経験をしているのではないだろうか?

だからこそ閉塞的でネガティブな思いを持つナツという登場人物にすごく私は感情移入ができた。

かわいらしくデフォルメされたキャラクター達ではあるが、この作品には現実のようなリアルさがまじまじと感じられるのだ。

この作品は何も突飛な日常を描いたわけではない。

例えば、ナツが持っている卑屈さや劣等感は今もきっと私も持っている。

いや、それどころか多くの人が持っているものだと思う。

多くの人が境遇こそ違えど『ナツ』の気持ちを理解できるはずである。

作品の所々に『わかるなぁ』が散りばめられており、皆が持っている『足りない』についてこの作品は言及している。

そして『足りない』に対する私たちの対処方法についても作者はこの作品の中学生たちを通じて作者自身の答えを出している。

この漫画を読み終えて受けた印象はとても言葉では言い表しづらいものだった。
面白い、面白くないという言葉では言い表すことができない、そんな感じだ。

ただただ、私はすごいと思った。考えさせられ、とてつもないやるせなさが私を襲った。

おすすめしておいてなんなのだが万人におすすめしていいような漫画でもないかもしれない。

特に今元気がない人はもしかすると読まない方がいいかもしれない。

でもそんな風にも思う一方でぜひとも読んでみて欲しいという気持ちが強くあるのだ。

ぜひ多くの人に読んでもらって感想を聞きたい。そんな漫画である。

極力ネタバレをしないように注意してこの記事を書き上げたために少しわかりにくかったかもしれないが、その目で確かめて欲しい。

もし読み終えたなら、冒頭で少し触れたが同作者の『空が灰色だから』もおすすめする。

作者の頭はどうなっているのか?ムチャだらけの不条理ギャグ漫画

何も考えずにただただギャグ漫画で笑いたいって時にぴったりな漫画を紹介したい。

そしてギャグ漫画を読んでいるとギャグの内容がぶっ飛びすぎていて作者様の頭の中を見てみたくなることがある。

「どうやったらこんなの思いつくんだ」と言った単純な好奇心であったり、「この人狂っているんじゃないだろうか」と心配になったりもする。

今回紹介したいのもそんな漫画だ。

『+チック姉さん』(プラスチック姉さん)栗井茶による今なおヤングガンガンで連載中の漫画である。

登場人物がほぼ全員狂っているという狂気溢れる漫画

狂っているという表現はあまり適当ではないかもしれない。

何にしろまともではない。

この作品の主人公はその名の通り『姉さん』であるのだが、その姉さんを中心に主に話の中心となる女子生徒3人は模型部に所属している。

そして、姉さんを含めその3人は頭にプラモデルを乗せている。

姉さんは城、オカッパと呼ばれる女の子は電車の、マキマキと呼ばれる女の子は戦車のプラモデルを頭に乗せている。

だがしかし、そのプラモデルを頭に乗せていることについての説明は一切ない。

さらに言えばそのプラモデルには中に時折、小人がいる(住んでいる?)しかし、これについての説明も一切ない。

頭にプラモデルを乗せている時点でそもそも主要人物達がまともではないことがわかっていただけると思う。

姉さんに関してはとにかくウザい、そのウザさが面白いのだが、主人公からしてこんなにウザいキャラクターを私は他で見たことがない。

この3人以外にも個性豊かすぎるキャラクターが数多く登場するのだが、まともなキャラクターはほんの一握りである。

そして登場人物達はとてもかわいらしいのだが……。

実にかわいらしい絵柄なのだ。だがそのかわいらしさとキャラクター達の内面性の酷さが非常にミスマッチしている。

非常にかわいらしい一方で頭がオカシイというのがまた面白い。

例えば、よく話題になるのが『美しさの人』と呼ばれる女子生徒や『国木』という男子生徒である。

特に『美しさの人』回は人気があり、私も大好きだ。

何故なら登場するだけで不思議と笑えるからだ。

『美しさの人』は名前の通り美しさを極めているのだが実際にはぽっちゃりして膨らんでいる顔で美しくない。

それでも自分を最高に美しいと思い込んでいるので、姉さんを挑発したりする。

他にも

マンションのベランダで一人で赤ちゃんになりきっているおじさんやムチャをすることが生きがいのおじさん。
なぜか木の幹に住んでいるおじさん、パワータイプの市長(パワータイプの市長ってなんだよ)などなど。
そんな数多くの狂った個性が強烈なキャラクター達でこの漫画は溢れている。

決して説明されることのない不条理

そしてその狂った行動群にツッコミを入れるキャラクターが少ないためツッコミがあまり挟まれない。

ギャグが連発されまくりで手が付けられないことになっているのに最後には不思議なことにストン、と収まり綺麗に終わる。

ノリと勢いが半端ではないしそこに作者は情熱を燃やしているのがわかる。

何度でも言うがこの作品にはまともな登場人物がいない。

だからこそ生まれる不条理な数多くの渾身のギャグを確かめて欲しい。

歴史に少し詳しくなる?11世紀に生きたヴァイキング達の物語

歴史物漫画というのは読んでいるとその時代の価値観と現代の価値観の違いなどが描かれていてその違いがとても面白い。

今回紹介する『ヴィンランド・サガ』(幸村誠)は11世紀初頭、当時世界で暴れまわっていたヴァイキング達を描く歴史漫画である。

史実をもとにしたフィクション!歴史は面白い!

この作品は史実に沿い、実在した登場人物達が多く登場するが、作品を面白くするため脚色が加えられている。

だが、それでも実際の人物を描くことでこの作品に歴史漫画としての重みを落としている。

そして、その時代の人々とその生き様をヴァイキングの視点から描き出している。

ヴァイキングという言葉は中々聞きなれない言葉ではあるが、それでも不思議とうまく物語は理解できる。

王室、貴族、平民、奴隷、そしてヴァイキング、それぞれの生活での苦しみや考えをごちゃごちゃさせずうまく描き出している点は流石としか言いようがない。

時には明るい部分だけではなく、負の側面をきちんと描き出しているが、それもまたリアリティがある。

だが決して重く暗いだけでなく、男らしいヴァイキング達の生き様にはスカッと爽快感を覚えるはずである。

特徴は圧倒的な画力!キャラクターにメリハリがあってしかも丁寧だ。

歴史漫画というのは登場人物がどうしても多くなりがちである。そして、なんとも実に覚えづらいものである。

だがこの作品はその高い画力でメリハリのついた丁寧な描き分けでわかりやすい。

そしてその高い画力で描かれる戦争などの戦闘シーンの迫力も凄まじい。

登場するキャラクターたちは絵の上手さとコマ割りの上手さが相まって躍動感溢れる動きを描き出している。

背景に至っても実に丁寧に描かれており、少し哀愁を漂わせる雰囲気は本当に素晴らしいものである。

緻密で重厚感のある描き込みはこの作品の魅力のひとつだ。その重厚感はこの物語にさらに深みを与えているのである。

圧倒的な男臭さ!でもそこがいい

さて、この作品の登場人物達は大変男臭い。

お世辞にも小奇麗とは言えず、野蛮で、単純で、なんとも暑苦しいのであるが、そこがまたいいのである。

男ならば間違いなく熱くなれるはずである。

ただし、凄惨を極めるシーンや、現代でいう倫理観に欠けたシーンなども多く登場するのだが、それはこの作品の時代背景を如実に表していると言える。

非常に作品内の人の生死が軽い点などは現代社会に生きる私達からすれば驚きであるが、

それでもこの作品の登場人物は明確な目的を持って生きている。そこがある種の清々しさを生み出している。

練りに練られたテーマ、登場人物、時代背景とすべてのものが相まって格好いい作品である。

カッコイイというより格好いいという言葉が相応しい。そんな作品である。

現在もまだ連載中であるのでこの機会に読み進めてみて欲しい。

暑くなる季節にぴったり!背筋が凍るようなホラー

暑い季節になるとレンタルビデオ店ではホラー特集が組まれたり、テレビ番組では心霊関係のホラー番組が多くみられるようになる。

やはりホラーは涼しくなっていい、背筋が冷えるので冷房もクーラーじゃなくて扇風機で事足りるようになる。

というわけで、地球にも優しい(かもしれない)ホラー漫画を紹介したい。

紹介するのは中山昌亮の『不安の種』と『不安の種+』である。

不安の種を植え付けられる超絶ホラー漫画

そもそもホラー漫画というのは結構貴重な漫画である。

よく語られる怖い話だとかはオチが怖いことが多いわけであってそれを漫画として表現しようとすると短編集ということになる。

『ホラーっぽい雰囲気の漫画』というのは少なくないが『ホラーに焦点を当てた漫画』が少ないのはなんとなくご理解いただけるのではないだろうか。

『不安の種』及び『不安の種+』は本当に恐怖にパラメーターを全振りしたような漫画なのでホラーが苦手な人は注意して欲しい。

興味がある方は画像検索だけでもしてみて欲しい、痺れるはずだ。

さて、こちらの『不安の種』だが簡単に言うと何気ない日常に潜む恐怖の短編集である。

登場人物達が普段通り何気ない日常を過ごしていると理不尽にも襲い掛かる、

またはただそこにある恐怖という点で多くのエピソードが共通しているが、まずはその理不尽さに恐怖を覚える。

しかも、なんだか不安になってくる。そういった類の恐怖の煽り方である。

そして怖い話に付きものなのが『得体のしれない者』である。

時には幽霊だったり、妖怪だったりとするわけだが、そんなクリーチャー的なもののデザインが秀逸である。

どう秀逸かと言うと生理的に怖いのだ。

よく心霊写真などで見かけられる「人の顔が写ってるから怖い」とかそんなのじゃなく、人っぽいもの(時には何かわからない)のデザインがただただ、怖いのだ。

タイトルに不安の種とある通り、実にこちらに不安の種を芽生えさせてくれるデザインだ。

各エピソードの最後に(もちろん漫画のエピソードのため架空の話ではあるのだが)そのエピソードの舞台となった場所や時期が明記されるのである。

それがまた少し各エピソードにリアリティを生み出してまたゾクッとさせてくれる。

この作品の有名なフレーズに「場所は伏す」というものがあるが、それもまた怖さを煽ってくる。

なんだか、「これは実際にあったことなんじゃないか……?」「今もどこかで……?」という風に思えてくる。

そしてほとんどのエピソードは未解決で終わる。

俗にいう投げっぱなしというわけだが、良い悪いは別として、その後どうなったのかは読者の想像に任せる。

というこの形式は良い具合に恐怖を刺激してくれる。

夏になって怪談などを読んだり聞いたりしての納涼代わりにぜひともお供として欲しい漫画ということで紹介した。

だが、本当に怖いので夜中に思い出して、寝れなくなったという苦情は寄せないようご注意いただきたい。

死ぬことと生きることを深く考えさせられる作品

『自殺島』(森恒二)

最初はそのタイトルからホラーかな?と思ったが読んでみると違った。

じゃあ、暗い話かというと確かに序盤ではそうなのだけども、根本的には違った。

なんというか、とても前向きで生きる気力が湧いてくる。そんな作品だった。

『ホーリーランド』で有名な森恒二が送るサバイバルヒューマンドラマである。

数多くのサバイバルの知恵が登場する本格派!!

簡単なあらすじを先に紹介させていただきたい。

この物語は主人公を含め、自殺未遂で死にきれなかった人々がとある島に送られるところから始まる。

そこは通称・自殺島と呼ばれる島。

送られた多くの人々が絶望と葛藤の中、死を選ぶが、主人公・セイは生きることを選択する。

しかし、生きるとは言ってもその島はインフラ設備などもない元は無人の島である。

生きる為に必要なものをどう調達するのか?

そういったサバイバル術がこの作品では数多くでてくる。

そのサバイバル術の多くは作者の実体験などと共に書かれており、とても現実的で知識的である。

人が生きる為に絶対必要である水の確保の仕方から、食糧の調達方法、動物の狩り方など、とても野性味溢れる内容だ。

今後の人生で私はその知識を使うことがないように願うものの、とてもためになる。

特に動物の追い方や、狩り方にとても力を入れて書いており、はらはらする。

よくよく考えれば動物を狩るなどとても難しいものであるはずだ。

それも猟銃だとかそんな便利な物はないわけである。

そういった不便さや動物の危険への敏感さなど、リアリティがあり、単純にすごく感心できる。

そして動物を食べるために殺す、ということについても重きを置いていて考えさせられる。

生きるために必要なことから、生きるとはどういうことなのかを描き出している。

ただ生きることを放棄した人々。

死ぬことを考え、生きることを一度は放棄したけれど、極限状態の中でも生きようと立ち上がるする人々。

そんな複雑な人間の葛藤をとても良く表現しているもののそこにじめっとした暗さは感じない。

そして秩序のない島という閉鎖された空間で人々はどういった社会を築くのか?というドラマ性。

複雑化した現代社会を離れ、ただ生きるために食糧を集め、寝床を確保して毎日を生き抜くというシンプルな生活。

もし食糧がなければ餓死する、という簡素だが絶対的な現実。

そこには現代社会のような複雑化した選択肢などはなく、ただ何もせずにいれば死ぬだけである。

そういった極限状態の中で人々は生きることに対して強い意志を持って生きようとする。

むしろ、極限状態だからこそ、人は生きようとする。

生きることは美しいと作者はこの作品を通じて、力強く言っている気さえする。

絶望に暮れず、生きることに対して前向きに成長していく登場人物を見ているとこっちも生きる気力が湧いてくる。

暗い気持ちになっている人に読んで欲しい、きっと元気が出てくるはずだ。

農業高校を通じて青年達の成長を描いた青春作品

今回紹介するのは大人気作『鋼の錬金術師』で有名な荒川弘の『銀の匙 Silver Spoon』である。

この作品を読むと牧場見学などに行きたくなる。

2012年のマンガ大賞にも選ばれており、この作品の影響で作中のモデルになった農業高校への志望者が急増したことが知られている。

マンガ大賞以外にも多くの賞を受賞していることからこの漫画の知名度の高さと完成度の高さがうかがえる。

酪農や農業という重要なテーマ性を描いた名作

この物語は主人公達が北海道の農業高校に通い、そこで酪農や農業を通じて成長していく様を描いた作品である。

作者は北海道の酪農家の生まれで、作中のモデルとした農業高校の卒業生であるため、作者自身の経験が多く反映されている。

そのため、酪農や農業のしくみなどが良く出てくるのだが、正確で、全くわからなくてもわかりやすく解説されている。

主人公は酪農や農業をしたことがないサラリーマン家庭という設定で、主人公目線で読者も読み進められるので、感心させられることが多い。

家畜の命について考えさせられるようなシーンは胸を打つ。

少年漫画としては少々重いテーマであるが、食べることについて、家畜の命の扱いについてという大事なテーマに触れている。

現代社会で当然のように肉などは精肉として加工され売られているが、それは農家の方々が届けてくれているからである。

そういった普段は忘れがちであるが大切な事を思い出させてくれる漫画だ。

ただし決して説教臭さは感じさせず、主人公の葛藤などを通してそれは語られる。

そしてそこに色々な疑問や発見を持ってして主人公は成長していく、ドキュメンタリー的に楽しめる作品でもある。

絵がとても爽やかで読みやすいこともいい。

主人公達の農業高校での学校生活を描いているが、とても作風は爽やかなのが特徴である。

出てくる登場人物達もみんな、個性が強く魅力的であるが、共通して言えることは誰もがとても爽やかであることだ。

酪農や農業への考え方、そして自身の将来への考え方など、学生時代に悩みは尽きないものである。

それらをテーマにしているが、決して暗くじめじめと描かれてはいない。

時にはシリアスに悩むこともあるが、学生時代の悩みにはえてして絶対の答えなどはないものである。

自問自答を繰り返し、人に頼り、自分なりの答えを探して成長していく青春の様は読んでいてさっぱりさせてくれる。

あとこれは私的にかなり重要なことなのであるが、出てくる食べ物がとってもおいしそうだ。

私は漫画内に出てくるおいしそうな食べ物や料理を見るのが好きだからである。

主人公が卵かけごはんを食べるシーンがある。

校内の鶏が生みたての卵を使う以外ただの卵かけごはんであるが、とてもおいしそうなのだ。

他にもピザを焼く話があるのだが、全てが自然由来の調達したての食材達。なんともおいしそうである。

なんというか説得力のある「おいしそう」なのだ。

酪農の大変な面、それと同時に酪農の良い面の両方をきちんと描き出していて、酪農や自然、人についても考えさせられる作品だ。

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