商店街を通るとシャッター通りになっている。

昔は多くの人で賑わったであろう往来に今は時が止まったようにさえ思う光景を見ると寂しくなる。

けれど、同時にどこか懐かしいような気持ちになる。

そんな下町の雰囲気を醸し出す日常ギャグ漫画を紹介したい。『それでも町は廻っている』(石黒正数)

商店街のメイド喫茶が舞台

メイド喫茶と言えば昔少し話題に上ったことがあると思う。

私はまだ行ったことはないが、今なお続いているところも多いそうなのでイイモノなんだろうと思う。

この漫画の舞台は下町風情溢れる商店街内のメイド喫茶である。

ただし、ここに登場するメイドさんはいわゆる『萌えー』な感じではない。

何故なら店主がお婆ちゃんなのだ。

もちろんメイド喫茶なのでお婆ちゃんがメイドの格好をしている。

なんともいかつい試みである。

だが安心して欲しい、お婆ちゃんが主人公ではない。(それはそれで読んでみたいが)

そこでアルバイトをすることとなった探偵小説好きの少し間の抜けた少女がこの作品の主人公である。

この作品はいわゆる日常系ギャグ漫画であるのだが、その話の作り方がとても様々である。

時には色恋沙汰からミステリー、SF、ファンタジーと本当に色々な角度から楽しませてくれる。

そしてそのどれもが、鮮やかな構成で描かれているので全く気持ち悪くない。

作者の引き出しの多さもすごいが、その話の作り方がとてもうまいのだ。

さらに各エピソードにクスりと笑わせてくれる小粋なギャグを仕込んでくる。

爆笑するようなギャグではないが、うまいなぁと感心する様な面白さを感じる。

そして多くのエピソードにおいて、どこか温もりを感じるのだ。

下町的で家族的な暖かさを作品を通して持っている。

この作品にはギャグと優しい日常があり、その雰囲気が読者を『それ町』の世界へと連れて行ってくれる。

この『それ町』を私は読み返すほどに面白さが増す作品であることを強調したい。

この作品を私は何度も何度も読み返している。

それは読み返すたびに新たな発見があるからだ。

この作品は時系列がバラバラに描かれている。

順序良く物語が時間経過と共に進んでいくというわけではなく、登場人物の過去の話に飛んだり、少し未来に飛んだりする。

けれど読み進めているうちは、別に違和感を感じることなく自然に楽しめる。

むしろ作品を読み進めていって時系列の繋がりを感じた時に少し感動を覚えるくらいだ。

「あーなるほど!それでこうなって、あーなるのかー」といった風に素直に納得させられるし、その気付きによってニヤニヤさせられる。

この作品の凄いところはその作品内での時間の使い方が非常に上手いところである。

俗に言う『サザエさん時空』(同じ年を繰り返すこと)を用いずに作品を膨らませるその手腕には感心せざるを得ない。

そのために何度か読み返しているうちにやっと気付けることもあって、本当に読めば読むほど味が出る漫画である。

ぜひとも繰り返し読み返して楽しんでほしい。