今回紹介したい作品は『空が灰色だから』などで有名な阿部共実さんの『ちーちゃんはちょっと足りない』という漫画だ。

さて、私が『ちーちゃんはちょっと足りない』を手に取ったのはこの作品が「このマンガがすごい!」では2015年オンナ編1位であったことが理由である。

なんとなしにこの作品を読み始めたわけだが、読後、私は予想しなかった強烈な印象が残った。

そのため今回は紹介というよりもこの作品を読んだ私の感想に近いところがあるのを留意して欲しい。

この作品を読んだ人は私と同じように色々な感想を持ったことだろうと思う。

単巻のため、読もうと思ったらすぐに読めるはずだ、絶対に読んでみてほしい。

クオリティが高すぎる単巻漫画

中学2年生になるちーちゃんは同学年の子達に比べるとどこか足りない女の子で、その友人との日常を綴った物語である。

最初はちーちゃんのおバカっぷりが微笑ましいほわほわとした日常が描かれているのだが、この物語の主人公はちーちゃんではなかった。

ちーちゃんといつも三人組でナツと旭という友人がいるのだが、このナツこそがこの物語の真の主人公だった。

そしてこの作品は誰もが持っている『足りない』を描いていたものだったのだ。

私は読み始めてすぐにはちーちゃんは頭が足りていないのだろうな、という楽観的な、そんな印象しか受けなかった。

実際に物語が動き出す5話目まではほのぼのとしたちーちゃんのギャク的要素が主となっていたのだが、だからこそ物語の終盤に重く突き刺さった。

ちーちゃんは『足りない』を持っている少女として描かれている。

頭は良くないし、勉強もできない、倫理観も欠如しており、良いこと悪いことの分別もない。

そして友人のナツも『足りない』を多く持った少女である。

ちーちゃんと同じ団地住まいで裕福ではなく、勉強もできないし、彼氏もいない。

『足りない』から満たされない思いを持っているし、何かが欲しいと思っている。

一方で旭は比較的に色々な物を持っているように描かれている、家も裕福で、勉強ができ、彼氏もいる。

そんな対照的な旭や周りの人間にナツは劣等感を持っている。

中学生などのそれくらいの時期というのは自分が通う学校が社会の縮図である。

誰しもが学校の中での地位や友人や親がこの世界の全て、とは言わないもののそれに近く感じるような、そんな経験をしているのではないだろうか?

だからこそ閉塞的でネガティブな思いを持つナツという登場人物にすごく私は感情移入ができた。

かわいらしくデフォルメされたキャラクター達ではあるが、この作品には現実のようなリアルさがまじまじと感じられるのだ。

この作品は何も突飛な日常を描いたわけではない。

例えば、ナツが持っている卑屈さや劣等感は今もきっと私も持っている。

いや、それどころか多くの人が持っているものだと思う。

多くの人が境遇こそ違えど『ナツ』の気持ちを理解できるはずである。

作品の所々に『わかるなぁ』が散りばめられており、皆が持っている『足りない』についてこの作品は言及している。

そして『足りない』に対する私たちの対処方法についても作者はこの作品の中学生たちを通じて作者自身の答えを出している。

この漫画を読み終えて受けた印象はとても言葉では言い表しづらいものだった。
面白い、面白くないという言葉では言い表すことができない、そんな感じだ。

ただただ、私はすごいと思った。考えさせられ、とてつもないやるせなさが私を襲った。

おすすめしておいてなんなのだが万人におすすめしていいような漫画でもないかもしれない。

特に今元気がない人はもしかすると読まない方がいいかもしれない。

でもそんな風にも思う一方でぜひとも読んでみて欲しいという気持ちが強くあるのだ。

ぜひ多くの人に読んでもらって感想を聞きたい。そんな漫画である。

極力ネタバレをしないように注意してこの記事を書き上げたために少しわかりにくかったかもしれないが、その目で確かめて欲しい。

もし読み終えたなら、冒頭で少し触れたが同作者の『空が灰色だから』もおすすめする。