今回紹介するのは大人気作『鋼の錬金術師』で有名な荒川弘の『銀の匙 Silver Spoon』である。

この作品を読むと牧場見学などに行きたくなる。

2012年のマンガ大賞にも選ばれており、この作品の影響で作中のモデルになった農業高校への志望者が急増したことが知られている。

マンガ大賞以外にも多くの賞を受賞していることからこの漫画の知名度の高さと完成度の高さがうかがえる。

酪農や農業という重要なテーマ性を描いた名作

この物語は主人公達が北海道の農業高校に通い、そこで酪農や農業を通じて成長していく様を描いた作品である。

作者は北海道の酪農家の生まれで、作中のモデルとした農業高校の卒業生であるため、作者自身の経験が多く反映されている。

そのため、酪農や農業のしくみなどが良く出てくるのだが、正確で、全くわからなくてもわかりやすく解説されている。

主人公は酪農や農業をしたことがないサラリーマン家庭という設定で、主人公目線で読者も読み進められるので、感心させられることが多い。

家畜の命について考えさせられるようなシーンは胸を打つ。

少年漫画としては少々重いテーマであるが、食べることについて、家畜の命の扱いについてという大事なテーマに触れている。

現代社会で当然のように肉などは精肉として加工され売られているが、それは農家の方々が届けてくれているからである。

そういった普段は忘れがちであるが大切な事を思い出させてくれる漫画だ。

ただし決して説教臭さは感じさせず、主人公の葛藤などを通してそれは語られる。

そしてそこに色々な疑問や発見を持ってして主人公は成長していく、ドキュメンタリー的に楽しめる作品でもある。

絵がとても爽やかで読みやすいこともいい。

主人公達の農業高校での学校生活を描いているが、とても作風は爽やかなのが特徴である。

出てくる登場人物達もみんな、個性が強く魅力的であるが、共通して言えることは誰もがとても爽やかであることだ。

酪農や農業への考え方、そして自身の将来への考え方など、学生時代に悩みは尽きないものである。

それらをテーマにしているが、決して暗くじめじめと描かれてはいない。

時にはシリアスに悩むこともあるが、学生時代の悩みにはえてして絶対の答えなどはないものである。

自問自答を繰り返し、人に頼り、自分なりの答えを探して成長していく青春の様は読んでいてさっぱりさせてくれる。

あとこれは私的にかなり重要なことなのであるが、出てくる食べ物がとってもおいしそうだ。

私は漫画内に出てくるおいしそうな食べ物や料理を見るのが好きだからである。

主人公が卵かけごはんを食べるシーンがある。

校内の鶏が生みたての卵を使う以外ただの卵かけごはんであるが、とてもおいしそうなのだ。

他にもピザを焼く話があるのだが、全てが自然由来の調達したての食材達。なんともおいしそうである。

なんというか説得力のある「おいしそう」なのだ。

酪農の大変な面、それと同時に酪農の良い面の両方をきちんと描き出していて、酪農や自然、人についても考えさせられる作品だ。