『自殺島』(森恒二)
最初はそのタイトルからホラーかな?と思ったが読んでみると違った。
じゃあ、暗い話かというと確かに序盤ではそうなのだけども、根本的には違った。
なんというか、とても前向きで生きる気力が湧いてくる。そんな作品だった。
『ホーリーランド』で有名な森恒二が送るサバイバルヒューマンドラマである。
数多くのサバイバルの知恵が登場する本格派!!
簡単なあらすじを先に紹介させていただきたい。
この物語は主人公を含め、自殺未遂で死にきれなかった人々がとある島に送られるところから始まる。
そこは通称・自殺島と呼ばれる島。
送られた多くの人々が絶望と葛藤の中、死を選ぶが、主人公・セイは生きることを選択する。
しかし、生きるとは言ってもその島はインフラ設備などもない元は無人の島である。
生きる為に必要なものをどう調達するのか?
そういったサバイバル術がこの作品では数多くでてくる。
そのサバイバル術の多くは作者の実体験などと共に書かれており、とても現実的で知識的である。
人が生きる為に絶対必要である水の確保の仕方から、食糧の調達方法、動物の狩り方など、とても野性味溢れる内容だ。
今後の人生で私はその知識を使うことがないように願うものの、とてもためになる。
特に動物の追い方や、狩り方にとても力を入れて書いており、はらはらする。
よくよく考えれば動物を狩るなどとても難しいものであるはずだ。
それも猟銃だとかそんな便利な物はないわけである。
そういった不便さや動物の危険への敏感さなど、リアリティがあり、単純にすごく感心できる。
そして動物を食べるために殺す、ということについても重きを置いていて考えさせられる。
生きるために必要なことから、生きるとはどういうことなのかを描き出している。
ただ生きることを放棄した人々。
死ぬことを考え、生きることを一度は放棄したけれど、極限状態の中でも生きようと立ち上がるする人々。
そんな複雑な人間の葛藤をとても良く表現しているもののそこにじめっとした暗さは感じない。
そして秩序のない島という閉鎖された空間で人々はどういった社会を築くのか?というドラマ性。
複雑化した現代社会を離れ、ただ生きるために食糧を集め、寝床を確保して毎日を生き抜くというシンプルな生活。
もし食糧がなければ餓死する、という簡素だが絶対的な現実。
そこには現代社会のような複雑化した選択肢などはなく、ただ何もせずにいれば死ぬだけである。
そういった極限状態の中で人々は生きることに対して強い意志を持って生きようとする。
むしろ、極限状態だからこそ、人は生きようとする。
生きることは美しいと作者はこの作品を通じて、力強く言っている気さえする。
絶望に暮れず、生きることに対して前向きに成長していく登場人物を見ているとこっちも生きる気力が湧いてくる。
暗い気持ちになっている人に読んで欲しい、きっと元気が出てくるはずだ。